豊中のナンバー1なものを伝えるために、過去の日記を紐解きます。
2021年3月30日、大阪ガスの山納さんと田仲さんに同行し、豊中市社会福祉協議会コミュニティソーシャルワーカーとして活躍する勝部麗子さんの案内で、農業を通じた定年後の男性の居場所づくりに挑む「豊中あぐり」の活動を見学させていただきました。
豊中あぐりの活動内容
豊中あぐりでは、
・都市型農園の運営と管理
・野菜の直売と提供
・ユニバーサル菜園としての運営
・地域福祉活動の担い手の養成
・地域共生ホーム「和居輪居(わいわい)」の運営と管理
に取り組まれています。

住宅地のど真ん中の空き地をつかった農園

認知症や障害のある人でも参加できるよう工夫された菜園。車椅子でも通れるように廃レンガが敷き詰められている。
住民から提供された一軒家を活用した交流スポット「和居輪居(わいわい)」。子ども食堂として活用したり、洋裁教室、認知症に関する勉強会など、さまざまな用途に活用されています。

近くの直売先のひとつ「びーの×マルシェ」。ここはひきこもりがちな若者の就労の場所。ほか、月に一回朝市も開催されています。
スライドで取り組みの背景を教えていただきました。
豊中市の高齢化は急速に進んでいて、60歳以上の男性が28%もいるのだとか。しかしボランティア活動は女性が重心で男性が続かない、という背景があり、豊中市社会福祉協議会では定年後の男性の居場所づくりに挑んでいるそうです。都市型農園はシニア男性が社会参加するための入り口です。
しかし当初は誰もが大歓迎というわけではなく、地元住民への説明会を開き、農園の肥料の匂いや害虫がくることの懸念や心配事にひとつひとつ対処して今にいたっているそうです。たいへん細かい配慮が必要だったんですね…。
勝部さんのお話で印象に残ったのは今のところ女性の会員は遠慮されていることです。
「ジェンダー的な話ではなく、コミュニティをつくると何をやっても女性の『巣』になり、男性が気後れして離れていく」と勝部さんはいいます。
男性は「おしゃべりは生産性がなく無駄」と考えてしまうのだとか。なるほど…。
参加しているシニア男性の声として「こういう活動でもやっていなければ誰も話し相手がいなかった」という方もいて、確かに「サラリーマン生活を引退したら、地域に誰も知り合いがいなかった」という話はベッドタウンの課題としてよく聞きますね。
農業という役割を通じて友だちが増えていった結果、元気になっていく例がたくさんあるそうで、BS朝日の番組で取り上げられた男性は、糖尿病だったけれど豊中あぐりで土いじりをしているうちに病気が治った、ということも話されていました。
役割が人を元気にする
勝部さんは最初、いざ畑をつくってもシニア男性たちは「何を植えるか」で話がまとまらなかったそうです。そこで、流しそうめんを開催することだけ決めてどういうやり方にするかをシニア男性たちに丸投げしたら、それぞれが得意分野を持ち寄ってうまくいったそうです。
つまり、それぞれがどんな背景がある人なのかがわかったことで、それぞれにあった役割をシニア男性たちが互いに提案できるようになったのだそうです。聞けば聞くほどなるほどの話が満載でした。
社会課題に取り組む人たちの共通の話題のひとつ
この取り組みが「豊中のナンバー1なもの」だと思う最大の理由は、ふだん社会課題に取り組む編集者兼ライターとして高齢者の買い物支援や子どもの居場所づくりの現場、ひきこもり支援の現場などで出会う社会福祉に取り組む人たちと、豊中あぐりの活動が共通の話題のひとつだからです。逆に言えばどの地域もこの課題に直面しています。
また、自分自身の京都の実家の喫茶店も高齢者男性が集う場所になっていて、彼らが何か地域に役割があれば、勝部さんが言うように「老害ならぬ、老益」、地域がアップデートするヒントになるのではないかと思いました。
特に画期的なのは最初に勝部さんの話で印象に残った、女性の会員は遠慮されている部分です。SDGsの文脈で思考すると男女いっしょにうまくいく方法を考えてしまいそうですが、実際に試行錯誤してうまくいかなったので男性限定にシフトしたことでうまくいったようで、その決断のはやさは経験によるものだろうなと思いました。
見えない孤独と孤立を解消し、さらに作物を栽培することで健康にもなる。4枚目の写真で紹介した「びーの×マルシェ」はひきこもりがちな若者の就労の場所となっていて、高齢者の買い物支援とひきこもり支援をうまく橋渡しされておられます。
これらの活動すべては人間関係の貧困や、関係人口の増大に取り組みたい地域の参考になる取り組みなのではないでしょうか?