奈良県立図書情報館 図書・公文書課課長・乾聰一郎さんからの推薦文

乾聰一郎さん 推薦者
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乾聰一郎さんから推薦文をいただきました!

乾聰一郎(奈良県立図書情報館 図書・公文書課課長)/1962年大阪府生まれ。1999年より奈良県教育委員会事務局生涯学習課で新県立図書館(現奈良県立図書情報館)の建設準備に携わる。開館後は展示やフォーラム、コンサートなど主催事業の企画運営や情報発信事業を担当してきた。2017年から現職。

乾聰一郎さんからの推薦コメント

著者の狩野哲也さんとは10年近くの付き合いになる。大阪・中崎町のコモンカフェで、当時このカフェを主宰されていた山納洋さん(現大阪ガス都市魅力研究室長)にお目にかかった際に紹介されたのが最初だったと思う。山納さんと話をしていると、狩野さんは、傍らでおもむろにノートをとりだしてメモをとり始めたことに少し驚いた記憶がある。

それ以来、狩野さんが主宰するサロン文化大学でお話を伺ったり、諸所で会う機会があったりしているうちに、私の勤めている図書館でのトークイベント(「ローカルブックレビュー&クロストーク 地域とのつながりをデザインする」 全4回 2012年)を一緒に企画・運営したりしながら付き合いが続いてきた。少しご無沙汰の後、今度初めての著書を出すという連絡をもらい、この本を手にとる機会を得た。

初対面からの印象は、今も変わらない。好奇心が旺盛で、情報収集に余念がないのだが、それは自らの問題意識をどのようなかたちで、誰にどう伝えるかという情熱のなせる技だろう。先のサロン文化大学もトークイベントも彼なりのひとつの表現なんだと思う。

だから、この本も「そんな筆者の持ちうるかぎりの経験と知識を詰め込んで、自治体の広報に携わることになった担当者ならばぜひ知っておいてほしいルールを整理し、「良い情報発信」のノウハウをまとめた1冊」(「はじめに」より)であり、そこらにあるハウツーものとは一線も二線も画する一冊になっていると思う。

内容については、わかりやすい目次を見れば一目瞭然であり、何よりも本書を読むに如くはない。本書では、自治体の情報発信ということがキーになっている。

公的サービスであるからこそ、その情報発信の手法には汎用性がある。民間であれば、当たり前だが最終的にはどのようなかたちにせよ収益を得なければならない。損か得か、数の多寡が利益や評価につながらざるを得ない。

公共(自治体)は、基本そのような競争ではなく、受け手が受容する「善さ」であったり「価値」で判断されるのであり、その意味で、ノウハウはそのような判断をするために、いかに情報を提示・発信するのかというところに著者の眼目があり、そこにこそこの本の価値があるのではないかと思われる。

話は逸れるが、それからすると、何とか納税制度は最も悪い事例のひとつだろう。

民間の競争の単なるコピーであり、する側も受ける側も射幸心を煽られ、一喜一憂に終始することになる。本書では、ウェブ発信に関わるノウハウながら、長いスタンスで考えられ、推し進められ、本当の「ファン」をつくるべき施策をどのようなノウハウで提示・発信し、届けるのか、手とリ足とり、数多くの先行事例を丹念に取材し、咀嚼し、整理されている。

だから、その先行事例を真似るといっても、各地域(自治体)の条件などはさまざまであり、そうであるからこそ、その多様な善さや価値が、受け手に確実に届くために(判断してもらうために)、何をどう伝えるのかはもちろんのこと、確実に受けての手元に届ける術が惜しげもなく開陳されている。

狩野さん自身から自著を紹介され、読んでいて、台湾のIT担当大臣オードリー・タン氏のインタビューを思い出した。「あなた自身の将来に関してどう思いますか? まだ公の職でやることがたくさんあると思いますか?」という質問に対して、

現時点で、台湾の公共サービスは、とても革新的だと思います。総統杯ハッカソンでは、とても良いアイデアがたくさん出てきます。3分の1が、パブリック・セクターのイノベーターたちからのアイデアです。もちろん、ソーシャル・セクターからも、ビジネス・セクターからも出てきますが、3分の1がパブリック・セクターからです。それは、公務員たちが、多くの人が思うよりもずっと革新的であることを私に示しています。ですので、私はこれからも公共サービスのイノベーターとして働き続けることを幸せに思っています。(Forbes Japan 2020/07/28 オードリー・タン独占インタビュー「モチベーションは、楽しさの最適化」より

と応えている。

もちろん台湾の話に違いないのだが、本書の多くの事例を読んでいるとその日本版と読めるような気もするのである。

また、狩野さんとの話のなかで、スーパー公務員と呼ばれている方の事例を敢えて避けたんですという言葉が印象に残っている。最後は人なのかもしれないが、偶然に光が当たる人は少数であり、大多数の事例は燈台もとにあり、そういう地道な職員への敬意とそれらの事例に狩野さんらしい光が当てられ、ついつい引き込まれてしまうのである。

いささか情緒的であることは承知の上で、実務的なこと(これは本書の重要な柱ではあるが)だけでなく、施策(自治体の想い)を届けるノウハウを会得することは、公的サービスのあり方や損得や経済原則に左右されない息の長い価値を見出すことでもある、と陰に陽に語る狩野さんの声に耳を傾けたい。

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